飲料業界ニュース | ||
ロングセラーは営業で守る 伸びるのは水と無糖茶 | ||
キリンビバレッジ社長 佐室 瑞穂さん が語る | ||
キリンビバレッジが無糖茶などの分野で相次ぎヒットを飛ばしている。三菱商事などと提携し、ミネラルウオーターのブランド「ボルヴィック」の輸入・販売などを手掛ける新会社も近く設立。総合飲料メーカーとしての地歩を固める。 (聞き手は日経MJ部長 近藤勝義) ヒットの極意 市場調査に力 --「生茶」や「アミノサブリ」など相次ぎヒットを飛ばしている秘けつは何ですか。 「二十年以上の歴史がある開発研究所を持ち、商品企画部が今度こういう商品を作りたいと言った時に、それに沿った候補が出せる体制にはなっています。商品企画部もライフスタイルの変化やし好の傾向をいち早くとらまえる感性を持ったメンバーがそろい、企画のベースになる市場調査に力を入れています。強いて挙げれば、この辺りが強みだと思っています」 --ヒットを生み出すための感性を持っているスタッフを社内から探し出すのも苦労があるのでは。 「基本は若くて、元気で、やる気のある者を社内公募しています。入社時から商品企画をやりたいという志望者は多いのですが、選抜して残るのは女性が多いようです。商品企画部は若い女性が半分の集団です。消費者としてお客様と同じような生活をし、その人たちと同じ感性でないと難しい。私のような人間は、いくらビール会社で商品企画部長をやり、技術的なことを知っているからと言ってもたいていは聞違えることが多い。だから開発段階で一切口をはさまない。今のところ着実にヒットが出ているから、ますます確信を深めています(笑い)」 「ただ社長として商品に関して全く責任も義務も果たしていないのとは違うのです。ビールの醸造技術者を長くやってきたから、生産管理とかモノづくりへのこだわりを持っています。良い原材料を調達し、その原材料を使って品質の良いものにつくり上げる製造技術があるかどうか、過去と違う優れた商品を生み出そうとしているかなど、その点はチェックしています」 --ヒット商品を定番商品としていくフォローアップも重要ですね。 「これが一番難しい。新商品だけに頼っていれば、開発コストもかかるし、投入時のマーケティング費用も多額で、消耗戦になってしまう。柱となるロングセラー商品の存在が収益性を良くするための必須条件。宣伝・広告のほかに、地道な陣取り合戦、営業が重要です」 「生茶の例をとれば、−年目、二年目はぐんぐんと伸びて今年三年目を迎えた。その間、無糖茶市場には似たようなコンセプトの商品が相次ぎ、今年は中国緑茶とかひと味違った新商品が出ました。そうすると相対的に売り場が少しずつ押されて減ってしまう。生茶はブランドカに相当自信があるので大丈夫だと思っていたのですが、今年前半はやっばり少しずつ押されてしまった」 「この傾向が五月ごろに分かったので、七月から八月にかけて「グリングリン作戦」と名付けた営業戦略をとった。全国津々浦々どこにいっても商品があるよう営業開拓に取り組み、従来あまりやらなかったチラシ特売にも取り組みました。七月は天気が悪かったのではっきりした数字は出なかったのですが、八月に入って生茶は大きく伸びました」 供給を柔軟に SCM構築中 --天候を読むのも難しいですね。 「清涼飲料はビールよりも天候に左右される面が大きい。夏場なら猛暑で伸びた分を営業力や商品力で伸びた分と見誤らないようにしないと。今、猛暑や暖冬などの変動要因を織り込んで需要予測し、供給計画を柔軟に見直すSCM(サプライチェーンマネジメント)のシステムを構築中です」 --ミネラルウオーターの分野で、仏ダノンのブランド「ボルヴィック」を取り込んだ狙いは。 「ここ数年、清涼飲料はさほど伸びていません。その中で増えるジャンルは無糖茶と水。当社は無糖茶の分野では今年発売した日本茶玄米を含め生茶と聞茶という有力ブランドを持っていますが、水はコーヒーを入れたり煮炊きに利用したりするホームユースの『アルカリイオンの水』だけです」 「ボルヴィクに注目したのは輸入でちょっと格好がいいパーソナルユースという点で、アルカリイオンの水と住み分けができるからです。親しい関係にある三菱商事が扱っており、新会社に当社のアルカリイオンの水を出しますから、ボルヴィックをくださいと申し出ました。三菱商事とは常にいろいろな話をしていますから、『じゃ、そうしようよ』と話がとんとん拍子に進みました」 --まだミネラルウオーターの成長はありますか。 「あると思います。今の清涼飲料のし好の流れは完全に健康志向ですね。それからダイエット志向。それと、まだ日本人は水を飲む習慣ができてから歴史が浅いですが、ボルヴィックのフランスは年間一人平均百g、日本は十g。清涼飲料の中で水力テゴリーで良いブランドを持っていないと、やっぱり私ども総合清涼飲料メーカーということでやっていますので、将来やはり戦っていけないんじゃないかと思っています」 --業界のシェアで見ればコカ・コーラ、サントリーに次ぐ三位。国内の再編の中にキリンビバレッジが加わっていく可能性は。 「実力が伴わない計画を立てて焦るよりは、地に足のついた計画を作って着実に達成するのが基本です。長期経営構想を策定中ですが、その中では相当チャレンジングな、高い目標を設定しようとしています。だから当然、三位になんか甘んじるつもりは毛頭ありません」 「方法論としては、良い商品をしっかり売って伸びていくという方法もありますし、M&A(企業買収・合併)や提携も。あらゆる産業でM&Aや提携はグローバルに行われており、当然、念頭に置きながら経営していかなければなりません」 さむろ・みずほ 1939年(昭和14年)東京都生まれ。62年東京大学農学部卒、キリンビール入社。キリンオーストラリア社長などを経て、92年取締役、97年常務。2000年3月キリンビバレッジに移り、社長就任。豊富な海外経験で人脈は広く、社内では社員と食事を共にするなど気さくな面も。 一言 佐室さんの趣味はバスケットボール。高校時代にインターハイ二連覇メンバーだった輝かしい実績があります。今も月に一度はコートに立つそうですが、さすがにスリーポイント・シュートの確率は「三十本に三本」に落ちているとか。 清涼飲料市場でヒット商品が生まれる確率はもっとシュート確率がもっと低い「千三つ」。そのなかで「生茶」など次々とヒットを飛ばしており、「開発段階で一切口をはさまない」と秘けつを語る表情にも自信が表れています。 「業界三位に甘んじるつもりはない」と意欲的で、「水」への本格参入もその一環でしょう。ただ消費者のし好の変化は激しいだけに、今後も安定的なシュート確率が求められます。 |
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2002/10/08 日経流通新聞より |
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